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1963年3月1日,世界で初めて米国デンバーのコロラド大学において臨床肝移植が行われた1).その後,移植手技,術前術後管理,移植適応患者選択などの問題点が徐々に解決され,成績もしだいに向上するようになった.さらに,1980年代に入り新しい免疫抑制剤シクロスポリンの登場と相まって,移植成績は飛躍的に向上した2).それ以降,欧米諸国をはじめ,中国,台湾,韓国などのアジア諸国をも含む全世界において,少なくとも100以上の施設において,5000例以上の肝移植が行われているものと思われる.また,移植成績も1年生存率74%,5年生存率64%と満足できるようになっている3).
一方,国内に目を向けると,現在までに千葉大学で1964年と1969年の2回,ヒトでの肝移植が行われている.しかし不幸にして移植肝は生着するには至らなかった.その後,現在まで脳死を前提とした肝移植は再開されていない.さて,日本における肝移植の研究を振り返ってみると,1960年代の前半に各大学が一斉に肝移植の研究に着手した.筆者らの所属する大阪大学においても1963年に肝移植を研究する臓器移植研究室が発足している.創始者は初代肝移植研究会会長を務められた故陣内傅之助大阪大学名誉教授である.陣内先生はその翌年,全国的規模で文部省科学研究班「臓器移植の研究」を組織した.この研究班を中心に積極的に臓器移植の研究に取り組んでいたが,1968年の札幌医大の心臓移植の後から移植全体の研究は徐々に下火となっていった.再び肝移植熱が出てきたのは,シクロスポリンが出現し,欧米での移植成績がよくなり始めた1980年代に入ってからである.1980年,大阪で移植学会が開かれたときに,そのころ肝移植の研究をしていた人たちが集まり肝移植懇話会が発足した.そして1982年には名称を肝移植研究会と改め,より積極的に肝移植の研究をすることになった.そして,前述の陣内傅之助先生が初代会長を務められることとなった.現在は筆者の一人,森武貞大阪大学教授が務めており,肝移植にかかわる医学上の,あるいは社会的諸問題について研究を行っている.肝移植研究会が行った業績の一つに『肝移植のための指針』(1986年版)発行がある.この指針にはわが国において肝移植を行う場合の最低限の基準を示している.
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