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あとがき
塚越 廣
pp.600
発行日 1969年5月1日
Published Date 1969/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406202547
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学会場で次々に発表される研究報告を聞いていると,スライド1枚にもいろいろの意味がこめられていることがわかる。例を病理組織標本のスライドにとつてみても,実に千差万別であり,群をぬいてきれいで一見して演者のいわんとするところを明示しているものから,きたなく雑然としていて,説明されてもなんだかよくわからないものまでいろいろあるわけであるが,なんといっても聴衆をひきつけるものはきれいでわかりやすいスライドであることにまちがいはない。ここではこれらのなかのとびぬけてきれいなスライドの背後にあるものについて考えてみたいのである。
まずいえることはこのスライドはけつして偶然につくられたものではないということである。1枚のスライドのかげにはその数倍ないし数十倍の使用されないスライドのあることに注目せねばならない。研究者の苦心の結晶である研究成果を精魂をこめて写真にした多数のスライド中からえりぬかれた1枚であるがゆえにきれいなのである。またきれいなスライドをつくるためにはそれに相応するきれいな組織標本を作成する必要があり,それはけつして一朝一夕にできるものではなく,長い年月をかけてつちかわれたものである。またたとえきれいな標本がつくられても,そのなかからスライドにとるべき新しい事実をみいだす研究者の努力と能力がなければならないことはいうまでもない。さらにその新しい事実を写真として美しいスライドにつくりあげる技術も無視できない。
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