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内頸動脈・椎骨動脈ともに生理学的・病理学的にあまりにも軽視されてきたのではなかろうか。頭蓋内動脈については,神経質なくらいにその病変が検討されながらその血液環流の本幹であるこれらの大きい動脈についてはまつたく注意がはらわれなかつたことは,まことに奇妙であるというよりほかに適切な表現法はなかろう。
疾患と関連づけて,臨床的に内頸動脈の閉塞をみいだし,報告したのは脳血管撮影法の創始者Monizである。937年のことである。わが国の清水健太郎教授も同年に症例報告を行なつた。しかし,気脳法におされて脳血管撮影の普及が停滞したこともあつて,約20年間の空白ができた。1950年代にはいり,脳血管撮影法の長所が認識され,広く応用が行なわれるにいたつて,にわかにこの病態についての知見が増してきた。ただ,第2次大戦の影響もあつて,欧米に先を越されてしまつたのは残念なことである。欧米で特発性内頸動脈閉塞症と名づけられて報告されたものがそれである。しかし,その大部分は動脈の硬化性病変に起因する内腔の閉塞であることがわかつた。おくればせながらわが国でも広く脳血管撮影が行なわれるようになると,しだいに頸動脈の病変がみいだされるようになつた。経験が増すにつれて,わが国の頸動脈を中心とする疾患が,欧米のそれとやや趣きを異にすることに気づかれだした。清水・佐野による高安病の再発見であり,現今,広く注目を集めているウイリス動脈輪閉塞症がそれである。また,内頸動脈閉塞もわが国のそれは若年層に片寄つており,欧米のそれが高齢層にあるのと,いちじるしい対照を示していることが明らかにされている。すなわち,わが国には大動脈弓から出るところから,総頸動脈・内頸動脈,さらに頭蓋内脳動脈の主幹までを含めて,きわめて多彩な病変の存在することが明らかにされたわけである。
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