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あとがき
萬年 甫
pp.456
発行日 1969年4月1日
Published Date 1969/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406202536
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4月号をお届けする。本紙への投稿数は全体として増加の一途をたどつているが,基礎医学分野のそれはむしろ漸減の傾向にある。数が減つても論文の内容が充実していれば結構なことであるが,かならずしもそうではなさそうである。もしこれが学園紛争長期化の影響の一端でなければ幸いである。もろもろの悪条件をはねかえして,基礎医学関係の方々のご精進をせつに祈つている。
かつて日本に在住して日本語に精通し現在アメリカにいるクーレンベックという脳研究者が,近ごろの日本人の書く文章は格調が乱れていると慨嘆している由である。私自身の文章がまさにそのとおりで,人をいう資格はまつたくないのであるが,学生の答案や学内でくばられるいろいろの檄文などを見ると痛切にそのことを感ずる。またやたらに外国語の出てくるのは困りもので,近ごろデパートのちらし顔負けの論文にぶつかつて,つくづく考えさせられた。内容がすべてに優先するといえばそれまでであるが,やはりそのうえに格調がそなわつていれば鬼に金棒で,それでこそ初めて時の試練に耐えることができると信ずる。医学史上に残つている論文は,私のみたかぎりでは,すべてそれらの要件を満たしていると思う。母国語で正しい文章の綴れぬ人は,おそらく外国語を用いる場合も明確に相手と意志疏通しているかどうか疑問である。私の経験では,科学論文に関するかぎり,日本語として立派に書かれているものは外国語に訳する場合も比較的楽である。その点ひとりよがりの文章ではどうにもならない。外国人の指摘を受けるまでもなく,お互いに気をつけたいと思う。
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