--------------------
あとがき
萬年 甫
pp.952
発行日 1969年8月1日
Published Date 1969/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406202592
- 有料閲覧
- 文献概要
鬱陶しい陽気がつづいている。天気ばかりでなく,多くの大学や病院は臨床基礎を問わず,いろいろの問題をかかえて暗雲におおわれている。梅雨明けがきても,この雲ばかりは容易に立ち去りそうにない,むしろ,ますます厚くなりそうな気配である。たしかに医学教育の現体制には積年の塵がつもつてもいようし,改善すべき点も多々あるように思われる。しかし,体制がわるいからといつて,勉学や研修を放棄することはそれこそナンセンスである。今日の医学を築き上げた人々のうちで,めぐまれた体制下で仕事をなし得た人々が果してどれほどあったであろうか。ほとんどがはたから見れば物質的精神的に苦しい条件と戦いながら,すぐれた業績をつんだのである。ゴルジしかり,カハールしかり,ヒッツィヒしかり,ニッスルしかり,数え上げればきりがない。その人々にとつて苦しかつたのは体制との戦いよりもむしろ自己との戦いの方ではなかつたか。
憂うべきは体制がわるいから研修ができないときめこむ他力本願の行き方である。いつたんそのような考えに堕したならば,体制がととのつても研修にはげむ気持が湧くものとも思われない,新たなものを目指していかなる体制が生れても,運営はすべて人にある。それを動かす人々が他力本願のぬるま湯に首までひたつていたのでは,どこまでいつても同じことである。体制の改革をのぞむなら,それと同時に個々人の充実がいつそう強く叫ばれなければならないと思う。
Copyright © 1969, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.