扉
三つの記憶
植村 研一
1
1浜松医科大学神経外科
pp.405
発行日 1990年5月10日
Published Date 1990/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436900065
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加齢と共に物忘れが目立ってくると「ボケ」て来たのではないかと不安になるのは人情である.しかし中高年の正常者が気にする「物忘れ」は,痴呆の中核症状をなす記憶障害とは異質のものである.従来,記憶は短期記憶と長期記憶に二分され,脳疾患や加齢は短期記憶を障害し易いが,長期記憶はよく温存されることが知られている.しかし短期と長期の二分点を明確に定義した成書は見当たらない.近年記憶機構の基礎(生理学・生化学・薬理学等)研究が盛んに行われているが,僅か数時間の動物実験結果から長期記憶機構を論じている研究もあり,数十年の長期記憶を持つ人間を診療している臨床家の立場からは承服できない.
臨床的にも生理学的にも,海馬が記憶と深い関係にあるのはよく知られているが,海馬が記憶の全てをまかなっているわけではない.また記銘障害と記憶障害もきちんと区別する必要がある.
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