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【88】外傷性頸髄障害に対する椎体固定術
(静岡済生会病院整形外科)森健躬
27例の外傷性頸髄障害を,Cloward法21例,Smith& Robinson法5例,Verbiest法1例の,前入進入路によつて,椎間板摘出と椎体固定術を行なつた。これらは,四肢麻痺14例,片麻痺5例,一上肢麻痺5例,下半身麻痺2例,両上肢麻痺1例であつた。3例の弛緩性麻痺を除き,すべて痙性麻痺であつた。脱臼・骨折は6例,soft disc herniationは4例で,17例はsoft and hard disc herniationの合併と考えられる。外傷は転落15,転倒7,衝突5で,交通事故は11例におよんでいた。また,外傷直後に発症したもの18例,他は発症までに,無症状の期間があつた。これらの手術成績は,優11,良11,可1,不変4であつた。成績について検討すると,若年者で骨軟骨症性変化や,下肢の機能障害が軽度のものほど良い。とくに,上肢の運動障害や疼痛はその回復が劇的であつた。術前の神経学的診断で,障害levelの判定が容易なものや,疼痛を合併して,障害levelに一致する知覚障害を有するものは予後もよい。このことは,脊髄症状にくらべ,神経根症状のほうが,手術によく反応することを意味する。充進した腱反射や,病的反射が正常にもどることは少ない。陳旧化した脱臼ではたとえ,整復ができなくても,脱出椎間板を摘出することにより,神経根症状は迅速に回復し,脊髄障害の軽快もおきる。これらの点からみると,外傷性頸髄症は,脊椎骨の形態的,機能的障害よりも,損傷された椎間板がその全周にわたつて膨隆して,脊髄や神経根に圧迫障害を生ずる,と推定される。したがつて,外傷によつては,脊髄や神経根が,それぞれ単独で障害されることは少なく,両者の症状が,症例によつて,種々な組合せで,出現してくるものである。本手術法が,もつとも良い効果をあげるのは,神経根症状がつよい症例である。解明されねばならぬ点は,まだ多く残されてはいるが,現在の段階では,本手術がもつとも秀れた治療法といえる。
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