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【E−1】 頭部外傷急性期における循環および脳細胞呼吸機能の病態とその治療効果について
(日大脳神経外科)森安 信雄
頭部外傷における主要臓器の循環動態について,受傷早期には各臓器とも血流量の減少がみられるが,重症例においてとくに脳および腎に減少が著明である。一方,各臓器の循環血液量としてみると,肺血量の増加,門脈系を中心にした腹部内臓の血液うつ滞がいちじるしい。このことは頭部外傷にともなう腎,肺および消化管における合併症発生に重要な意義がある。
各臓器の循環面の変動は2週後には大体健常値に近く回復するが,重症例のなかには,脳の血流量は回復しても,脳02消費量の改善が著しく遅延するものがみられる。この原因のひとつは,脳の1次的損傷による脳細胞の呼吸機能低下によるものと考えられる。そこでまず外傷時における脳ミトコンドリアの呼吸機能につき,頭部に打撃を加えた実験家兎で検討した。その結果,打撃後5〜30分ですでに脳ミトコンドリアの呼吸調節能(R.C.R.),酸化的燐酸化(ADP/O比),酸素摂取量はいずれも低下を示し,1時間で最低値となる。変化を経日的にみると,これらの値は打撃後2週頃より回復がはじまるが,酸素摂取量は5週後においても対照値の70%にまで回復するにすぎない。この事実は前述の脳酸素消費量の回復遅延を代謝側から示すものと思われる。この機能低下に対し,酸素吸入のみでは諸量値の改善はみられない。低体温を施したものは,冷却温度,持続時間によつて有効性がみられ,またチトクロームC,プレドニン,アリナミンを投与した群においてはそれぞれ効果を認めた。しかし薬剤投与の効果を期待するには,できるだけ早期にしかも比較的た量を集中的に使用する必要がある。
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