シンポジウム 現代における精神医学研究の課題—東京都精神医学総合研究所開設記念シンポジウムから
シンポジウムを顧みて
石井 毅
1
1東京都精神医学総合研究所
pp.953-955
発行日 1974年11月15日
Published Date 1974/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202241
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Ⅰ.精神医学研究をめぐる今日的情況
精神医学研究をめぐる今日の情況はまことにきびしい。精神医学が今日直面しているものは何か?それは過去の体制に対するきびしい批判と反省であろう。明治の西欧文明輸入から百年を迎えて,今日までの精神医療を支えてきた大学中心の講座制精神医療体制は,大学紛争を契機として重大な危機に直面している。そのきざしはすでに昭和30年代からあった。向精神薬の導入により,精神病院における精神障害者の処遇と治療に大きな変化がもたらされ,その姿は一変したといわれた。開放主義,作業,レク,社会復帰活動を中心とするいわゆる病院精神医学,さらに地域,あるい社会精神医学が叫ばれるようになったのもこのころからであった。これらは精神医療にとり明るい材料のように思われたのである。人々は,精神医療がいまや市民権を獲得したかのごとく喜び,昭和39年の精神衛生法改正反対運動のさいには高らかに叫びをあげたのであった。
このように希望にみちた楽観論も,その根本的体制に変革がないかぎり,やがて致命的な挫折を体験しなければならなかったのである。大学紛争が医学部の紛争に始まったことは象徴的である。日本の医療の体制が大学の講座制を幹として成り立っていたことは疑いない。講座制は医療よりも大学の教育と研究を中心として組み立てられており,その頂点に坐るものが教授である。医師は第一線の医療よりも大学に繋がり,研究業績を上げ,ついにその権力の頂点に上ることを目標としてはげむのである。このような患者不在の体制が批判を受けたことはまことに当然といわねばならない。
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