Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
楢林先生は扁桃核定位破壊に際する扁桃核同定の示標のひとつとして,スパイクをあげられましたが,私たちは,このスパイクの出現頻度は,行動異常の程度のひどいものに多いという印象をもつております。そこで,最初に,行動異常という病的情動の状態と,このスパイクの間になんらかの相関があるかどうかという問題についてふれてみたいと思います。つぎに,情動と関係が深いといわれる辺縁系に属する,海馬および扁桃核に,電気刺激で,限局性の発作波をおこした場合,患者の精神状態にどのような変化がおこるかという点につき,検討してみたいと思います。
最初の問題についてですが,まず,第1に,この扁桃核から誘導されるスパイクは,行動異常のない患者からも容易に得ることができます。分裂病患者および半側性パーキンソンの患者からも,立派なスパイクが得られます。したがつて,一般的に,扁桃核からある条件のもとで,行動異常の有無とは無関係にスパイクが得られます。第2に,このスパイクは,自然睡眠の各段階で,かなり異なつた頻度で消長します。第1図は,細いビニールチューブを支えとした電極を扁桃核に植込み,手術の影響がほぼとれたころ,一晩の終夜脳波を記録したもので,その間頭皮上脳波と,扁桃核スパイクの出現頻度の関係をみてみますと,覚醒の状態では,スパイクは,一度もみられていません。しかし,睡眠のある段階からスパイクがみられるようになり,眠りが深くなるに従つてその出現頻度も増大してきます。デルタ波のみられる深睡眠期には,最も多くみられます。また,入眠期にはみられず,軽睡眠期の瘤波(hump),紡錘波(spindle)の出現するころから,ぼつぼつでてきます。また,最近問題になつている,いわゆる賦活睡眠期(activated sleep)では出現していません。つまり,扁桃核スパイクは,自然睡眠の各段階に応じて,その出現は,かなり容易に変化するといえます。第3に,麻酔との関係を調べてみますと,局麻のみの覚醒時で,脳波でもα波がみられるようなときに,定位手術を行なつた場合,スパイクはみられないのが普通です。これに,イソミタールを静注してみますと,スパイクが出現してくるのがみられます。また,ある麻酔状態のとき,さらに,イソミタールを静注して,麻酔を深めてみると,スパイクの出現頻度はさらに増加してきます。これらのことは,自然睡眠および麻酔に際して,その深さが進むにしたがつて,スパイクの出現も増えてくるということで,いわば時間的な相関ですが,さらに,扁桃核のうちでも内側のほうが,外側よりでやすいということであり,これは,部位的なもの空間的な相関であると考えられます。
Copyright © 1964, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.