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心臓に關する種々の愁訴があり然も心臓に器質的變化を認め得ない場合には心臓神經症として取扱われる。此の場合器質的障碍のないと云う事柄は大變難かしい内容である。その範圍は種々の檢査方法の進歩と共に必然的に縮小される。例えば最近私共の印象に新しい一人の患者は多年高血壓症があり突然胸部絞厄感と左胸下部の疼痛を訴え胸内苦悶顏面蒼白の發作に襲われ脈搏は微弱となつて重篤な状態に陷つたのであるが,之は當然狹心症發作である。そして共發作は應急處置によつて一時危急を免かれ得たが其後數時間の間隔を以て同樣の但しそれよりも稍々輕度の二回の發作を來したこと,豫々高血壓症に罹患していたことから,心臓に器質的變化のあることは直感的に感得されるので當然心筋梗塞と判斷すべきものである。勿論此の事は爾後の發熱,白血球増加,赤血球沈降速度の促進から裏付けられた。此の時心電圖を撮影して見ると四肢誘導ではPI II IIIの逆轉,PⅢの二相性,P-Qの正常値最大限迄の延長,Rの低値(最大0.5mm),S-Tの痕跡的低下,Tの低値を示していて心筋の高度の障碍を認め得るが,それ以上の斷定には不足している。然し同時に採取した胸壁誘導心電圖はV3よりV6に亘つて著明な弓状に下降したS-Tが現われていて心筋梗塞を明白に物語つている。斯の樣に檢査が精密になるに從い,或は新しい檢査方法が發見されるに伴つて心臓の器質的變化は一層微細に且つ正確に認識し得る樣になり,從つて「器質的變化を認めない」と云うことは次第に其の範圍が縮小されて行く。臨床上神經性と名付くるには及ぶ限りの精細な檢査を施し其結果をよく檢討した上で初めて謙虚に斷定する愼重さが要求される。
神經性心臓疾患の場合には心電圖に何等異常な變化のないものである。若し少しでも變化があれば,それは何か舞質的障碍が無いか否かを十分檢討吟味し,當然あり得て差支ないものであることを確認し得る場合でなければならない。
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