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緒言
胃十二指腸潰瘍の外科的療法の中,胃切除術は,胃分泌の胃相を除去する事によつて,これを治癒せしめんとしたのに反し,1943年Drag-stedt)が提唱した腎迷走神經切除術は胃分泌の腦相を支配する神經を切除する事によつて,これを治癒に赴かせんとしたものであり,同一疾患に對して全く異つた觀點より治癒目的を達せんとしたので,この手術は非常な興味をもつて迎へられると同時に,種々論議の的となつたのは當然と云わざるを得ない。亦胃迷走神經切除術の登場に與つて,消化性潰瘍そのものも精神身體疾患(psychosomatic disease)の1つとしで一層注目される樣になり,その治癒方面に關してだけでなく,その成因に關しても,盛に研究が行はれる樣になつた。
潰瘍の新治療法として本法が紹介されてより數年を經過したが,この間,アメリカに於ては多數の外科醫が本法を追試し,その治療効果について種々檢討を加へた結果,消化性潰瘍のあるものに對しては胃切除術に優ると云う報告が今日まで相當數多く見られるので,本法は潰瘍の外科的療法の一つとして相當高く評價されていると考えられる。
しかし本法は,Dragstedtによつて初めて行われたのではなくて,彼よりも以前に,Exner,Schwarzmann2)等數人の人々3)−8)によつて行われたのであるが,その成績が不良であつたため殆どかえり見られなかつた。しかもこの成績が惡つた原因をDragstedtは神經の切除が不適當であるか,不完全であつたためであると指摘してゐる。從つて本法を施行するに當つては迷走神經の解剖學的所見に精通し,これを基礎とする適切な術式によらなければならない。アメリカに於ては,Dragstedtの發表以來,迷走神經の解剖學的研究並にその切除術式が多數の人々により發表されてゐるので,ここにその概要を紹介し併せて著者9)が本邦人新鮮屍體100例について調査した迷走神經の解剖所見について述べる次第である。
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