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緒言
Verworn (1914)1)が生活系を興奮性の高低によつて分類排列し,興奮性の最も高く悉無法則に從う心筋や有髓神經纎維を等興奮系と名付け,之に反して悉無法則に從わないものを不等興奮系と名付けて,その極端なるものに根足類の僞足や麻醉神經を擧げて以來,この方面に關する生理學者の關心は異常に亢まつた觀がある。
特に麻醉神經に於ける興奮性の問題は我國に於て盛に研究討論された。Lucas (1917)2)は有名なAdrianの實驗3)並びに彼獨特な最小間程の測定から,神經の麻醉部位に生じた興奮の大きさは傳導と共に減衰することを結論して,麻醉神經が不等興奮系に屬するというVerwornの説に荷擔したが,小池4)及びPütter5)等は麻醉部に於ける傳導は不減衰であるという結果を得た。其の後此の問題の發展の舞臺は我國に移され,加藤の不減衰傳導學説(1924)6)を産むに至つた。即ち麻醉部の長短(6mm以上で)に關係なく傳導中絶に至る迄の時間(消滅時間)は相等しい事及び麻醉部に於ける活動流の振幅及傳導速度は時間と共に一樣に低下する事を根據として麻醉部に於ける興奮傳導は興奮性の低下にも關らず不減衰であつて等興奮系に屬すると述べた。之に對し直ちに石川(1926)7)の反對説が出た。石川等が刺激部位の興奮性と刺激部位から距つた部位のそれとを嚴に分離した功績は大きいが,實驗方法が大體加藤等のそれと同種のものであるにも關らず兩者の結果は悉く相反する事實は我々後進をして奇異の感を抱かしめる。兩者の論爭は毎年學會を賑わしたが田崎8)9)は遂に1本の神經纎維に對する麻醉實驗に成功し,麻醉藥は或濃度以上ではRanvier氏絞輪部に對しては殆ど瞬間的に作用し麻醉の最終状態に至ることを確かめ,共の後の研究10)によつて獨特な跳躍傳導學説を導いて神經傳導の究明に1新紀元を劃したが,之を以つて直ちに上述兩説の葛藤を解決したものとは言えない。別にDavis等(1926)11)は活動流の大きさを示標として麻醉部の興奮性を研究したが,麻醉部に於ては興奮の大きさは減衰することなく,只正常部との境界部に於て加藤の言う樣な藥液の擴散に起因する減衰とは全く別な減衰(又は増強)があるとの結論に達した。上述の如く從來この問題に關する多くの研究が行われているが,傳導速度の測定を應用したものは殆んどない。そして神經各部位の傳導速度はその興奮性の量的標示として最も正確に測定し得る値であるから12),著者は傳導速度の測定を應用した本研究を行つた次第である。
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