Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
頸動脈體手術の危險と後貽症
手術の危險ということが方々でいわれていろ。わたくしは,臨床的ならびに,實驗的にその危險性があまり多くいわれすぎていることをのべてきた。或る手術に附隨する危險性を故意にもとめる人のありようわけはないし,萬一の危險というものがあれば,力のかぎり防ごうとすることは,だれでも考えることである。ただし,絶對に危險のない手術というものはあるまい。局麻劑1本の注射ですら,直接的な死因になることはある。安全率というものと效果というものとを,その場合,場合に秤量して,おこなつているのではあるまいか。
經フ的におこなう頸動脈洞加壓によつてすら死亡した例はいくつも報告されている。それにもかかわらす,それ自體が全く檢査目的であつても,しかも,手術が忌避されがちの循環疾患にわれわれは日常使つている。かような危險は高齢者でこのあたりに動脈硬化をもつもの,結果器官の一つである心筋に障碍のあるもの,ヂギタリス,その他をつかつているものにおこりやすいといわれる(Wendeebach,1918)。危險の多くは,大抵,心搏や呼吸運動の停止,失神,痙攣である。わたくしは,この試驗で致死させた經驗をもたないが,いちぢるしい反射をおこした例には何回か出あつている。これをまとめて,頸動脈洞反射亢進症,または頸動脈洞失神として報告したことがある(日内,昭23-2,4,7)本症の治療は亢進した神經を局麻するだけでもよし,神經をとつてしまつてもよい。これが救いである。それゆえ,本神經反射に異常な亢進があれば,その程度によつては,手術の適應症にさえなる。美甘氏(外科,昭23-7)は局麻が洞神經を一時的にブロックすることになるから,局麻はしないといわれた。それには一理があろう。高血壓症患者の血壓を尤進するような所置は,やらないですめばすました方がよい。しかし,わたくしは洞反射の過敵なものにはぜひ局麻をすべきであるという。なぜなら,洞神経反射をブロックすることが危險をさけるみちであるからである。中山教授のいわれるように,局麻が本小體の摘出に便利だということにも充分共感しうる。なるべく,やりよいように工夫して手術しようとすることに,反封のありようわけはない。また中山教授は洞壁神經に手をつけることがタブーであるべき場合をあげている。はたして,いつも「血壓調節神經」なるがゆえにタブーとすべきであるか,それは今後,さらに考えるべきことであろう。しかし,一側の洞壁神經が一時局麻される程度では,重大な椿事はおこらない。美甘氏の死亡例の時間までに,局麻がきいていることはありえない。死亡した時間は激時間以上たつていると思われる。
Copyright © 1948, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.