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はじめに
遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia:HSP)は,最近の分子遺伝学における長足の進歩により,多彩な遺伝的背景を持つ疾患群の総称として捉えるべきである。家族性痙性対麻痺(familial spastic paraplegia:FSP)やStr殞pell-Lorrain症候群は同義語である。従来は,Harding 1)が,1981年に提唱した臨床症状と遺伝形式を勘案した分類法が広く受け入れられていたが,今日では分子遺伝学の成果によりSPG(spastic gait)1からSPG21までナンバーリングされ登録されている。
歴史的には2),遺伝性痙性対麻痺の最初の記載が1880年Strmpellによってなされている。症例は3兄弟のうち,兄は37歳から,弟は56歳より痙性歩行を示し,父親が少し足を引きずっていた。彼らは痙性対麻痺以外には症状を認めず,その後1886年に弟の剖検が報告された。Strmpellは,さらに祖父,父,2人の叔父と1人の兄弟に同様の症状のある34歳発症で27年後死亡した症例を報告した。それによると,感覚障害はなく,進行性の痙性対麻痺を示し,杖歩行可能な程度の下肢の麻痺を呈していた。神経病理学的には,感覚系は保たれており,上位頸髄から腰髄にかけて側索錐体路の変性と後索Goll束の変性を報告している。1898年3症例を報告したLorrainと連名で「Strmpell-Lorrain症候群」とも呼ばれている。
疫学的調査は不十分ではあるが,西ノルウェーでの1974年の報告3)では,人口10万対優性遺伝型で12.1,劣性遺伝型で1.9となっている。1986年,デンマークで9家系23名の調査から,人口10万対でそれぞれ優性遺伝型0.8,劣性遺伝型で0.1との報告4)がある。本邦では,厚生省特定疾患調査研究班による1988~1989年のHirayamaら5)の疫学調査によれば,有病率は人口10万対あたり約0.2と推定されると報告されている。
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