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はじめに
傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurological syndrome:PNS)とは,腫瘍と神経組織に共通の抗原に対する自己免疫的機序,具体的にはこれらに対する自己抗体(onconeural antibodies;腫瘍/神経共通抗原認識抗体)や反応性リンパ球により生じる神経症状のことであり,腫瘍の転移や浸潤,圧排,癌治療に伴う副作用によって生じるものではない。PNSは担癌患者の0.1%程度に生じる比較的稀な病態とされている。
辺縁系脳炎,亜急性小脳変性症,オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群,脳脊髄炎,亜急性感覚性ニューロパチー,ランバート・イートン筋無力症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome:LEMS)が代表的な症状で,亜急性に進行することが多い。これらの症状は,単独もしくは2つ以上の組み合わせ,あるいは時期を変えて出現することがある。これらの症状をみた場合には,PNSを疑い血清,髄液中の自己抗体を測定するとともに,症状と自己抗体をガイドにした背景腫瘍の検索が重要である1,2)。
診療上しばしば問題となるのは,神経症状が背景腫瘍の発見に対して先行する例が多いこと,また背景腫瘍が微小であるために腫瘍発見が困難な場合である。初期の腫瘍スクリーニング検索においては,50~60%の症例で腫瘍を指摘できなかったと報告されている3)。そのため,背景腫瘍の検索を時期を変えて繰り返し行う必要がある。おおよその目安としてはPNSと考えられる症状の発症から4年間,6カ月に1回程度のスクリーニング検査が必要1)で,腫瘍検出率向上の点からは,18F-FDG-PETを含めた腫瘍検索2)が推奨されている。
1980年代以降,PNSに関連する自己抗体の発見により病態解明が飛躍的に進み,2004年には,Paraneoplastic Neurological Syndrome Euronetworkによって,PNSの臨床診断基準(Fig.)1)が提唱されるに至った。
このPNS臨床診断基準1)では,典型的な臨床像で,腫瘍の存在を強く疑う根拠となる神経症候群を古典的症候群と定めている。また,臨床的意義が十分確立されているonconeural antibodiesを“well-characterized onconeural antibodies”と位置づけ,腫瘍発見のマーカーになるとした1)。また,PNSのマーカーとして一定の意義が確認されている抗体を“partially-characterized onconeural antibodies”と位置づけた1)。具体的には,抗Hu抗体,抗Yo抗体,抗CV2/CRMP5抗体,抗Ri抗体,抗Ma2抗体,抗アンフィフィシン(amphyphysin)抗体を前者に分類し,抗Tr抗体,抗Zic4抗体,抗PCA-2抗体,抗ANNA-3抗体,抗mGluR1抗体を後者に分類している(Table1)。このうち,抗mGluR1抗体以外の自己抗体はいずれも細胞内抗原を認識する自己抗体である。
現在,well characterized onconeural antibodiesについては,ravo PNS-blot(RAVO Diagnostika社,ドイツ)というリコンビナント抗原を用いた免疫ブロットキットを使えば,比較的安価かつ簡便に検出可能である。
また近年,従来の免疫組織化学,ウエスタンブロット法による抗体検出に加え,プロテオミクス解析による新たな抗原分子同定法や,培養細胞に細胞表面抗原のcDNAをトランスフェクションし,立体構造を保ったまま抗原を発現させ,三次元構造を認識する抗体を検出する方法が開発されてきた。これらにより,細胞表面受容体やチャネルに対する抗体を検出することが比較的容易になった。この結果,傍腫瘍性もしくは自己免疫介在性脳炎とされていた症例の血清,髄液中から,新規の自己抗体が続々と発見された。傍腫瘍性神経症候群は,より広範な自己免疫介在性の神経症候群という枠組みの中で見直されるようになった。
こうした流れから,古典的症候群の1つである辺縁系脳炎の中でも,新規の自己抗体を加え,抗体を切り口としたサブグループに分類が進んでいる。以前から自己抗体,臨床像,背景腫瘍の種類に関して一定の関連が知られていたが,抗体ごとに臨床経過,治療反応性もやや異なることがわかってきた4)。
治療反応性の面からは,自己抗体の認識する抗原が,細胞内分子であるのか,細胞膜表面の分子であるのかが重要視されており,自己抗体の種類とその標的分子について理解しておくことがPNSの診療に直結するようになってきた。
Abstract
Paraneoplastic neurological syndrome (PNS) is a rare disorder caused by the remote effects of cancer is considered as caused by humoral or cell-mediated immunity. Several autoantibodies related to PNS have been discovered since the 1980s. These antibodies were classified into 2 categories based on the PNS diagnostic criteria recommended by PNS Euronetwork in 2004: well-characterized onconeural antibodies and partially characterized onconeural antibodies. Recently, techniques for the detection of these antibodies have been developed. Additional autoantibodies have been shown for neural surface antigens related to autoimmune-mediated encephalitis in patients with and without cancer. Because the PNS neurological symptoms often precede tumor diagnosis, the antibodies are useful diagnostic markers for PNS and occult tumors. Anti-tumor therapies are essential for PNS, and successful immunotherapies depend on the location of antigens, whether intracellular or on the surface of membranes. Generally, the latter cases are responsive to therapy. Only a limited numbers of cases with intracellular antigens have been improved by early and aggressive immunotherapies. Neurologists should be alert for PNS and check the presence of autoantibodies at the start of therapies when encountering rapidly progressive neurological symptoms of unknown origin. Here, we describe the relationship between onconeural antibodies, clinical features, tumor types, and response to immunotherapies.
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