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■はじめに―治療ガイドラインから アルゴリズムヘ
精神障害が心身とそれを取り巻く外部環境から多大な影響を受け,身体疾患にもまして全人医療を要請されることは言をまたない。アメリカ精神医学会がDSM-III(1980)で採用した多軸診断法が,日本でも広く受け入れられているのはそのためであろう。精神分裂病や躁うつ病の場合,第1軸に相当する病状の治療は薬物療法を中心に行われる。また,第2軸の人格面や適応機制の問題には精神療法が,第3軸の身体合併症には身体各科の治療が行われる。第4軸の心理社会的因子および環境因子では家族,学校,職場などを視野に入れた心理社会療法が中心になるし,第5軸の患者の社会的機能の障害には精神科リハビリテーション,生活技能訓練や生活支援を含む福祉サービスなどが行われる。精神科治療の基本にこうした包括的な全人医療が欠かせないことをよく承知した上で,最新の精神医学の進歩を取り入れて精神科治療をさらに改善しようとする努力が続けられている。
その大半は,主に薬物療法と心理社会療法を網羅した教科書または精神科治療学といったものか,疾患別の治療ガイドラインである。例えば,前者には改訂を重ねているKaplan & SadockのComprehensive Textbook of Psychiatry(Williams & Wilkins)があり,主な治療法の歴史から今日の治療指針に至るまで詳細に記述している。また,後者にはアメリカ精神医学会(APA)による治療ガイドラインがあり,うつ病治療の実践ガイドライン1)は1971〜1991年までの169編の文献をもとに作成されている。ごく最近出された精神分裂病(以下,分裂病)治療の実践ガイドライン2)も581編の論文を引用し,脆弱性-ストレスモデルに沿って作成されたものである。急性期,安定化の時期,安定期,難治例についての抗精神病薬の選択アルゴリズムも掲載されていて,アメリカにおける標準的な治療指針を理解するのに役立つ内容となっている。その一方で,こうした教科書,治療解説書や詳細な治療ガイドラインにとどまらず,治療現場ですぐに役立つような実践的なガイドラインやアルゴリズムが検討されている。例えば,最近報告されたAPA関連の分裂病4)と躁うつ病(気分障害)5)の治療ガイドラインがあるが,それらは上記のAPAの実践的ガイドラインとは異なっている。それらは膨大な数の関連文献を総説して作成する従来の治療指針ではなくて,精神科医が日常の診療において専門家からアドバイスを受けたいと思うような場面を想定し,多領域の専門家にアンケート調査を行って,推薦頻度が高かった順に第1・第2・第3選択,ほとんど用いない治療法に分けて解説したものである。最近は日本でも患者と家族への心理教育が注目されているが,それに必要な分裂病と躁うつ病(気分障害)の解説ガイドラインも合わせて掲載されている。
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