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■はじめに
1983年9月30日に発効したイングランドとウエールズのための新しい精神保健法は,英国における精神疾患患者mentally illおよび精神遅滞者mentally handicappedの医療に関する歴史上画期的な法律である1,2)。この法律が重要な理由がいくつかある。すなわち,この法律は,一般に成功とされた1959年制定の英国精神保健法の単なる部分的な改訂ではなく,人権についてのかつてない重要性と関心を反映した長期にわたる白熱した論議や,患者が治療によりその苦悩から解放されることを願う精神保健従事者の絶えざる努力の結果である。1959年制定の精神保健法自体も,自由入院手続きの採用や,司法的手続きによる入院制度から離れようとする傾向,強制入院中の患者の適否の見直しをする独立した精神医療審査会の設定など,かなり革新的なものであった。Curran3)は,世界各国における精神保健立法の比較分析を行い,1959年以降この革新的な法律をまねる国が多いことを示している。この1959年法は,イングランドとウエールズの精神保健法が依然として19世紀から20世紀初頭にかけて蓄積された諸法律に基づいていた当時,治療楽観主義と社会立法改革の時代に制定された王立委員会による,精神疾患および精神薄弱mental deficiencyに関する諸法律の全面的な見直しによったものである。しかし,その数年後には国際的な人権運動がみられ,その結果として北米における集中的な活動,また国連や欧州人権条約European Convention on Human Rightsといった他の国際的な団体の人権および政治的権利宣言などが続いたのであった。さらに1959年に国連が採択した子どもの権利宣言Declaration of the Rights of the Child,1971年の精神遅滞者権利宣言Declaration of the Rights of Mentally Retarded Persons,および1977年の障害者権利宣言Declaration of the Rights of Disabled Persons(身体,精神障害者を含む)には,精神保健の領域に関連した特別の規定がみられた。北米では精神疾患患者の憲法上の権利を主張する場として裁判所が利用され8),判決に従って改革された法律がアメリカやカナダの多くの州で成立した。国際的な宣言や精神保健法の新たな改革は,障害者といえども,一般市民として,治療を受ける権利を含め同じ基本的権利を持つ,という原則を確認するものであった。
イングランドとウエールズでは人権運動の高まりの認識の増大,ならびに精神科医療やメディカル・パターナリズムに対する不信の増大とあいまって,多くの有力専門家諸団体による1959年法の再検討が行われるに至った。ますます発言力を増しているMINDおよびその法律理事も改革の必要性を指摘した一連の評論書や論文を刊行している4)。
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