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はじめに
日本精神神経学会が2002年に精神科専門医制度を設立することを決定したことが精神科医の間で大きな話題となったことは記憶に新しい。2005年度より本制度の移行措置が施行され,今日まで精神科臨床を牽引してきた精神科医が精神科専門医および指導医として認定され始めた32)。さらに2005年度以降に前期卒後臨床研修を修了して精神科を選択した臨床医からは,移行措置ではなく本格的な専門医制度での研修が求められることとなる。2007年度現在では,日本精神神経学会が認定した精神科施設において多くの若手精神科医が精神科専門医を目指し,専門医制度に則って充実した研修を受けている。この制度によって精神科における研修は大きく変化することとなり,同時に専門医制度を持つ他の診療科目と肩を並べてその専門性を主張できることとなった。
脳科学の目覚ましい発展に伴う生物学的精神医学への志向性の増大によって,精神療法は精神医学全体の発展から取り残された感があるが,精神療法は他の診療科目に対して精神医学が最も特長を発揮するところであり,精神療法が精神科臨床において必須であることについて異論を挟む余地はない。実際のところ,今日の一般的な精神科医が行う精神科臨床では薬物療法に精神療法を併用して行うことがほとんどである。このため,精神科専門医制度の中にも精神療法の研修に関するガイドラインが盛り込まれているのは当然のことであろう。
このガイドラインについては後述するが,精神科医に対する精神療法の教育と訓練に関しては,欧米だけではなく本邦でも多くの論文でその重要性が謳われている8,24)。その重要性については言うまでもないが,これからの後期卒後臨床研修医は,精神科専門医制度のもと,数年という短期間のうちに全般的な精神疾患を経験して一定レベルの精神科医療の能力を身につけなければならないという多忙で甚大な努力を要する研修生活の中で,精神療法の訓練に固有の困難に遭遇する。後期研修医の精神療法の技能獲得は,訓練する側,施設や制度といった環境による支持があってこそできるものなのである。
これまで後期卒後臨床研修における精神科研修と専門医制度については,長年にわたって日本精神神経学会のシンポジウムや論文において検討されてきた19,32)。しかし,専門医制度が始まってからの期間が短いこともあり,その研修内容について検討している文献は今後増えてくるかもしれないが,今のところ見当たらない。そこで本稿では,わが国の精神科専門医制度に関して,諸外国の状況と比較しながら,現在の精神科医療を取り巻く状況のもとで将来の精神科医療を担う若手精神科医が精神療法の技能を獲得する過程について検討してみることとした。
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