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本年第15回大会を迎えた日本生物学的精神医学会は,3月17〜19日の3日間,東京医科歯科大学融道男教授会長のもと,都内アルカディア市ヶ谷(旧私学会館)に約600名の参加者を得て開催された。大津での12回大会(1990年)以来かつての若手会が復活し,若手プレシンポジウムが学術集会に先立って行われるようになったが,本年は17日午後2つの課題「脳研究の新しい展開」と「ストレスの生物学的研究」が取り上げられ,気鋭の7名の研究者によって時代の先端を行く仕事が報告され,活発な討論が行われた。まず前半の課題では横田博氏(第一製薬)が,DNAの競合的再会合(IGCR)の原理を用いると,脳に特異的な構造変化を起こすDNAのクローニングが可能であることを紹介し,内田洋子氏(都老人研)がアルツハイマー病では神経の成長抑制因子活性が低下するため,見かけ上神経栄養因子活性が高くなるように見えることや,アストロサイトの性質が変化してくることなどを報告した。後半の課題では,矢原一郎氏(都臨医研)がストレス蛋白質のHSP90について詳細に紹介し,ストレスによる傷害からの細胞保護のメカニズムを報告,仙波恵美子氏(和歌山医大)はc-fos,c-junなどの細胞性癌遺伝子が,ストレス応答の際各組織によって異なる反応を示すことを,また新谷太氏(慶応大)がサイトカインの1つインターロイキン-1が,ストレス下では視床下部に直接的に働いて,ノルアドレナリンを放出させること,さらに栗生修司氏(九州大)は,拘束ストレス下における血中カルシウム低下症への中枢神経系,自律神経系の関与について述べ,その心理性応答特性に触れ,最後に北山功氏(三重大)は,長年のうつ病動物モデルにおけるストレス反応の研究から,慢性ストレスによってニューロンの機能低下ばかりでなく,変性や軸索終末の退縮が起こることを示された。演題が多く十分な討論ができなかったことが惜しまれるが,今後数を絞ってじっくりと議論できるような配慮が望ましいと思われた。
かつて若手会は,会場とは別に大学の講義室などで行われ,研究の過程における苦労話や失敗談が気楽に出せる雰囲気があったが,今や洗練された錚々たる研究発表の場となって立派に再生した姿に,権威にとらわれないで自由に交流した時代を懐かしむ当時の発起人のひとりである筆者は,都会で立派になった息子を,田舎でまぶしそうに眼を細める親父のような気持ちを覚えた。
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