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はじめに
心と体の相互作用,いわゆる心身相関は,決して新しい概念ではなく,「病は気から」という言葉に象徴されるごとく一般大衆の日常感覚に密着したものであり,古くから卓越した臨床家により繰り返し指摘されてきた。例えば,古代ギリシャのガレノスは,陽気な婦人に比べ憂欝な婦人は,乳がんにかかりやすいことを見いだしているし,W・オスラーや石神亨は,今世紀はじめに心理的因子が結核の発症,進展に影響を与えうることを豊富な臨床事例から推察している。
従来,脳内での情報交換は神経伝達物質とホルモンであり,免疫系のそれはサイトカインであり,それぞれ隔絶した自律システムとして機能していると考えられていた。しかしながら,近年の神経科学,分子生物学の進歩により,神経系細胞は,それまで免疫系の情報伝達物質と考えられていたサイトカインを合成,分泌するのみならず,その受容体も備えていることがわかった。同様に,免疫系細胞は,神経伝達物質やホルモンを放出するとともにそれらに対する受容体を持っていることが証明されるに至り,精神,神経,免疫系が共通の情報伝達物質,受容体を介し,相互に綿密なネットワークを形成していることが明らかとなった。精神,神経,免疫の相互作用を研究する新しい学問領域—精神神経免疫学の誕生である。
一般に,ストレスは免疫機能に抑制的に作用するとされているが,実際にはこのようなストレス=免疫抑制といった単純な構図では説明できない場合が少なくない。多数の臨床研究,動物実験から明らかにされているように,免疫機能への影響は,ストレスの種類,持続期間によっても異なり,同じストレッサーに対しても曝露時間の違いにより,相反する結果となることも珍しくない。したがって,精神免疫学の臨床研究をデザインする際に,どのような免疫系パラメーターを用いたらよいか戸惑う場合が少なくない。
本稿では,健常人を対象に行われた従来のストレス研究を概観し,ストレッサーの違いにより免疫指標がどのように変化するかを整理し,その意義について検討する。
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