Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
■はじめに
生体は,内外の環境を認識し,それに適切に対応すべく生体防御系を保有している。その機軸を成すのが,神経(内分泌)系と免疫系である。両系は独立に機能しているのではなく,密な情報伝達システムを形成して相互に調節し合っている(堀ら16);浅井ら4);永田30);神庭20))(表1)。神経系と内分泌系が共通の情報伝達物質と受容体を共有しているように,神経内分泌系と免疫系も情報伝達の素子として共通の物質を用いている。そればかりかその作働メカニズムにおいても数多くの共通点がみられる(表2)。生体防御系の頂点を脳とみなすならば,免疫系は非感覚刺激を認識する第6の感覚器であるとする見方も成立しえよう(Blalock7))(図1)。さらには,「免疫系はかつて脳の一部であったが,やがて解剖学的に分離し全身にくまなく分布するようになったのであろう。かつて有用であった神経伝達物質受容体は痕跡としてリンパ球に残されているにすぎず,もはや生理学的には大きな意義を持たない。」とするダーウイン主義進化論が展開されることもある(Gormanら13))。
脳と免疫の連関は決して新しい概念ではない。様々な心理社会的因子が免疫系へ少なからぬ影響を与えることは,古くから直感的観察をもって語られ,またそれを検証した疫学的研究は枚挙にいとまがない。解剖学的に両系統が接点を有することや,ストレッサーが胸腺,脾臓,リンパ節のサイズを減らすなど機能的にも脳が免疫系に影響を及ぼすこと(Selye41))は半世紀も前に見い出されていた。やがて近代的な実験系を組んだ研究により,脳と免疫が相互に対話しながら複雑で精緻な生体システムを維持していることが明らかになった(図2)。本稿は,ここに挙げたような脳-免疫連関の生物学を詳説する。ただし誌面が限られているため,脳-免疫連関にかかわる心理・社会的研究,精神神経疾患にみられる免疫学的異常あるいは精神神経疾患の病態形成への免疫学的関与についての詳細は他誌にて紹介する(神庭ら21))。
Copyright © 1995, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.