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はじめに
レジリエンス(resilience)は「しなやかさ,回復力」14)あるいは「抗病力」21)などと訳され,回復や健康生成に着目した概念として近年わが国でも注目されてきている。これまでの精神医学は,疾患の原因や危険因子,脆弱性を明らかにしようとする立場からの研究によって発展を続けてきた。しかし,レジリエンスに関する研究が発展すれば,これまで見いだすことが難しかった新たな治療法や治療論が生まれる可能性があり,その点でレジリエンスは非常に魅力的な概念といえる。レジリエンス概念の歴史的な変遷については,田らの優れた総説があるのでぜひ参照されたい4,5)。
ただ,レジリエンスに関する研究がきわめて広範かつ多岐にわたっていることもあり,レジリエンスは理解しやすい概念とは必ずしもいえない。そこで本稿では,レジリエンスを理解するうえで有用と思われるRichardsonのメタ理論と,アロスタシス(allostasis)およびアロスタティック負荷(allostatic load)の概念を紹介する。これらの理論や概念によって,心理学的および生物学的な観点から,レジリエンスに関する膨大な先行研究の体系的な理解を少しでも深めることができればと思う。
なお,レジリエンスという用語にはさまざまな定義があり,筆者らは現時点で特定の主張や定義を強く支持しているわけではないが,本稿では近年の傾向に沿ってレジリエンスを「強いストレッサーを経験しても精神疾患を発症しない状態」(the absence of psychopathology by DSM-Ⅳ criteria)」1,6,18)と暫定的に理解する。そして,稿の終わりに,再びレジリエンスの定義について少し考えてみたい。
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