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はじめに
解離症群の特徴は,「意識,記憶,同一性,情動,知覚,身体表象,運動制御,行動の正常な統合における破綻および/または不連続」1)(DSM-5-TRによる)であり,これらの破綻や不連続は全体的ではなく部分的であることが多く,その持続は浮動的で日により時間によっても変動し,個人生活,家族生活,学業,職業などに有意な機能障害をもたらす。主体的体験の減弱,連続性の喪失(離人感,現実感消失など)や,通常は容易であるはずの情報の利用困難(健忘など),主体の意識と行動への意図せずに生じる同一性の侵入(同一性の混乱や変容など)と,症状は多彩である。解離症群は,しばしば対処困難なストレス状況や深刻な心的外傷体験との関連で認められる。しかし,解離しやすさ(解離傾性)に性差,年齢差,個人差を認めることから,何らかの素因との関連が推測されるが決定的な知見はない。また,不安症や摂食障害などに併存して,解離症状が認められることもある。
解離症はフロイトやジャネの時代から概念化され,ICD-9やDSM-Ⅱの時代には「転換型」と「解離型」に分類され,ともに共通の病理を持つと考えられ,身体に心的葛藤が転換され症状発現するもの,精神神経症的に解離されて症状発現するものと記述された。米国ではDSM-Ⅲ以降,この「転換型」は身体表現性障害の下位に分類される一方,欧州などではこの分類方法は継承されICD-10では解離性(転換性)障害と記述され,共通する病理を持つものと捉えられた。そうした中で,解離症状を精神症状として現れる精神表現性解離症状,身体症状として現れる身体表現性解離症状として分類することが検討されている2)。また,解離症状を5つの中核症状,「健忘」「離人症」「現実感喪失」「同一性混乱」「同一性変容」に分類して評価し,これらの強度や組み合わせで解離症状や疾患構造を理解することが提案され,それに基づいた構造化面接法が提案されたこともある3)。また,離人症や現実感喪失のように自己や世界から分離されているという感覚を「離隔」,運動あるいは認知過程の不能によって特徴づけられる「区画化」として記述しうることも述べられている4)。すなわち多彩な解離症状の概念化の過程で,その分類法が提案され,その評価方法が論じられてきたと言える。
その中で,もっぱら精神症状として現れる精神表現性解離症状を評価するものとして解離体験尺度(Dissociative Experiences Scale:DES)5)および解離症状質問票(Dissociative Questionnaire:DIS-Q)6)が提案され,またもっぱら身体表現性解離症状の評価法として身体表現性解離質問票(Somatoform Dissociation Questionnaire-20:SDQ-20)7),離人症状の評価法としてケンブリッジ離人尺度(Cambridge Depersonalisation Scale:CDS)8)が提案されている。以下,各尺度を簡単に紹介する。
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