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精神科診療に長く携わっていると,精神科医療における性差について考えさせられることも多い。たとえば,私自身は,男性は長い話をあまり好まない一方で,女性は話にじっくりと耳を傾けてもらうことへのニーズが高いように感じることも少なくない。そういった自身の感じ方も影響し,自分の専門領域であるコンサルテーション・リエゾンやサイコオンコロジーの診療の中で,意識的にも無意識的にも女性と男性で面接の方法や治療のアプローチを分けていることが多い。たとえば,女性ではまずじっくり時間をかけて気持ちの状態やストレスとなっている状態とその背景を聴きとることを優先する。一方,男性では,感情面に焦点を絞って聴くことよりも,その患者が抱えている問題点を共同作業で同定し,その解決方法を一緒に考えることへのニーズが高いのではないだろうか。個人差による影響はむろん大きいが,これらのことが結果的に自身の診療における面接の進め方などにも影響を及ぼしているように感じる。
翻って,これはなぜなのだろうか。先日,産婦人科の医師と話す機会があり,そのことについて尋ねてみたところ,やはり女性特有のライフステージやエストロゲンなどのホルモンなどの影響は間違いなくあると思うが,それだけで説明できるかどうかは分からないということと,女性に対しては精神心理的な側面や感情面についての問題を扱いながら診療を進めることは疾患を問わず重要であると思う,との意見であった。また少し調べてみると,性差自体を研究テーマにした性差医学(gender-specific medicine)という領域があることも知った。女性と男性は生物学的に異なる面があり,また心理社会学的にもさまざまな異なる影響を受ける可能性があるので当たり前なのかもしれないが,考えてみてもうまく整理できず,その結果,私自身のそういった疑問が今回の企画につながった。
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