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少子化,出生率低下など,わが国における子どもの絶対数の減少に対する危機的な状況への警鐘が鳴らされて久しい。そのような状況で子どもや子育て世帯への支援を一元的に担う政府機関として,2023年4月に「こども家庭庁」が発足したことは記憶に新しい。実際,子どもを取り巻く環境の厳しさに関係する社会的問題として,いじめ,虐待,不登校,ヤングケアラー,ひとり親家庭,貧困などの話題が連日のように新聞などでも報道されている。私自身,「トー横キッズ」と呼ばれる10代の男女が薬物中毒下と考えられる状態で飛び降り自殺をしたという記事を読んだときの衝撃を忘れられない。また自身が専門にしているサイコオンコロジーでも15〜39歳の児童・思春期・青年期・若年成人(Adolescent&Young Adult:AYA世代),なかでもA世代と言われる思春期・青年期の若者ががんに罹患することの影響の深刻さを診療の中で強く感じていた。それらの心配は的中し,若者の自殺数が上昇に転じた。
2010年代は自殺者数が減少傾向にあったが,2020年以降は新型コロナウイルス感染症の猛威により,社会が感染対策中心に回らざるを得なくなり,社会経済的基盤が弱く不安やストレスに曝された若年者の自殺が増加傾向になったことは周知のことである。厚生労働省と警察庁によれば,2022年には小中高生の自殺者数が過去最高の514名となった。2023年も513名と高止まりを続けている。もともとわが国のAYA世代における死因の第1位は自殺である。逆に言うと,この世代の命を奪う最大の原因は自殺であることを示しており,その背景には社会環境のみならず精神疾患の影響が直接的にも間接的にも大きいことは論をまたないであろう。自殺する絶対数は中高年に比べると少ないが,それでもAYA世代の自殺対策において医学・医療の中で最も大きな役割を期待されているのは精神医学・医療ではないだろうか。このことは精神医学・医療にとっては大変重い未解決の課題である。
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