特集 性暴力―「起きた後/起こる前」に支援者は何ができるか?
沈黙する職場のセクシュアル・ハラスメントを問い直す
中野 葉子
1
1原宿カウンセリングセンター
pp.239-243
発行日 2025年3月10日
Published Date 2025/3/10
DOI https://doi.org/10.69291/cp25020239
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I はじめに
セクシュアル・ハラスメント(以下,セクハラ)は性暴力である。
「軽い冗談の延長線」や「個人間の問題」と捉えられがちなセクハラは,単なる不適切な言動には留まらない,職場や社会における権力関係のなかで行使される暴力の一形態である。その受け止められ方は,時代や社会の価値観と密接に結びついており,世代や立場によって大きく異なる。
たとえば,ある20代の女性は,上司からのセクハラを理由に退職した後もフラッシュバックに苦しんでいる。30代で自身のセクシュアリティに悩む別の人は,職場で性的に辱められて以来,うつ状態となり出社できなくなった。一方で,「セクハラ対策は面倒くさい」と漏らす40代の男性管理職や,「セクハラなんか気にしていたら仕事にならない」と淡々と語る50代の女性もいる。また,「昔は(性的な言動が)許されてよかった」と嘆く60代の男性もいる―これらは,筆者が臨床場面で出会った一例に過ぎない。とはいえ,セクハラという概念が時代とともに急速に変化してきたからこそ,こうした見解の違いが際立つのかもしれない。
筆者は,東京都渋谷区にある開業相談機関での勤務と並行して,大手企業の相談室や地域支援の仕事に従事するカウンセラー(公認心理師・臨床心理士)である。本稿では,これらの臨床経験を踏まえ,会社組織におけるセクハラの現状を見据え,予防と被害の深刻化を防ぐ方策について考察したい。

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