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精神障害の労災認定件数が3年連続で過去最高を更新し続けている。また2018年には法定雇用率の算定基礎に精神障碍者が加えられることになる。このような趨勢において,今日産業精神保健は多くの精神科医にとって身近なものになりつつある。一方で,法・制度面では,心理負担軽減やストレスマネージメントのスキルアップによって職場のメンタルヘルス向上を図るべく,ストレスチェック制度が成立した。
この成立はもちろん望ましいことだが,制度自体や今後の運用に対して問題点も指摘されている。守秘義務,個人情報保護といった制度の枠組みに関するもの,また現場における実務的問題点も少なくない。さらに中小企業が多いわが国の現状をふまえると,従業員数50名未満の事業所では努力義務とされていることは懸念される。精神科医にとってこの制度は,一般的な産業医にも精神医学の視点が必須になった点で喜ばしい。また産業保健に熟知した精神科医の役割が重要になったという点でも意義深い。なにより精神障碍者自身にとって,労働には社会の中であらためて自身の存在価値を確かめる意義があるとされるだけに特記に値する新制度である。けれども彼らの就業に関して,中井久夫氏による名高い「性急に就業を促さない」から始まる10項目の警句を思い出すと,手放しには喜べない。一方で,この問題に関与したことのある精神科医であれば,精神疾患の病状の安定「労災保険上の治癒(症状固定)」を判定することの難しさを経験されたことであろう。以上のようにさまざまな次元でpros and consが入り混じった新制度と動向,そしてここから派生する諸問題が今月号の特集として扱われた。本領域には暗い編集者も本誌を通読したことで,この問題の今日的課題を大掴みすることができた。
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