- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
近年の精神科臨床における大きな潮流の1つに,精神療法の重要性が再認識されるようになったことがある。分子生物学研究やその成果を基に進める創薬などの対極に精神療法があるのかなと思う。この精神療法も私が若い頃の精神分析ではない。認知行動療法はもとより弁証法的行動療法,アクセプタンス・コミットメント・セラピー(ACT)への注目が太い流れになりつつあるように見える。また面白いことに,このような傾向の中でわが国独自の森田療法が再評価されている。今月のオピニオンでは,こうした領域のエキスパートの先生方がそれぞれのご専門分野を簡潔明瞭に概説してくださった。いずれも門外漢なりに概要と傾向が理解できる読み物に仕上がっている。
臺先生の特別寄稿を懐かしく拝読した。というのは,昨年の秋にある若き精神科医の結婚披露宴で先生のお席のすぐ近くに座らせていただく機会を得たからだ。臺先生の対面にはアルツハイマー病の基礎研究で有名な井原康夫先生がおられた。井原先生が,本稿の冒頭の部分と同様に,「どうして臺先生は精神科に進まれたのですか?」という質問をなさって,そこからお二人の談義が楽しく盛り上がるのを拝聴するという僥倖を得た。「小学生の頃,ここ(乃木坂)の近くに住んでいて,学校の帰りに,乃木将軍が(明治天皇の後を追って)自決したのはこの場所だと聞かされた」というくだりでは,歴史上の人物である臺先生を拝見しているかのような気持ちになった。若き日の臺先生は,優れた業績を連続玉突きのように途切れることなく出されたと先輩から伺ったことがある。本誌で先生がその業績をご紹介なさるのを拝読すると,なるほどこのことかと得心がいく。しかも臨床・基礎研究のいずれであっても,今なお新しいと感じられる着想と方向性は実に魅力的だ。また有名な東大の「こころの発達」診療部も先生に源があることを知り,改めて感服した。
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.