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2月上旬には早々と卒業可否と専門課程3年生の進級の判定を教授会にはかった。このあと1・2年生の学年末試験の結果が各講座より出されるのを待って,彼らの進級判定を爼上にのせることで,私の2年間の教務委員長の役は任期が切れるのであった。このやれやれといった気持ちを抱いていだ3月の初め,厚生省からの医師国家試験出題基準(ガイドライン)改定案について医育機関アンケートが回ってきた。以前のガイドラインに少し手を加えた程度のものであろうと,高を括って「改定案」の頁をくってみて,その様子の違うのに驚いた次第である。アンケートは学部の総意をもって回答されねばならないので,早速教務委員会を開いて検討に入った。
新しい改定案で目を見張ったことは,総論と各論にわけられていて,前者は医学・医療総論として各科の総論の部分をまとめ上げた内容である。「ガイドライン改定マニアル」によると,「……基本的臨床知識・技能をより重視するため各科の総論部分を統合し,また,社会的諸問題にも配慮した内容の医学・医療総論を導入する……」とある。すなわちいままでの各科のガイドラインの総論の項目をオムニバスとしてまとめたものが医学・医療総論である。各論は医学各論(内科,外科,小児科)および9科のそれぞれ各論からなっている。従来は,各科目のガイドラインと学問体系とはほぼ重なっていた。大学の各講座は自己の学問体系に固執し過ぎるため,総論部分が切り離され各科の統合された総論部分が作り出されると,ガイドラインにある各科各論と各科の学問体系との整合性に疑問と不安が生じてくる。しかし,ガイドラインは,実地に医師の任務を果たすのに必要な事項を医師国家試験の「妥当な範囲」と「適切なレベル」を目安として整理されたものである。卒前教育では,各科の学問体系を学生に教えることも必要であろうが,今回の改正案の総論部分にみられるような学際的,集学的な仕組みで学ばせることが,実地医師を養成するのには大切な方法であると思う。とくに卒後教育では専門に徹してしまうし,仮りに各科をローテイトするにしても,卒前教育において少なくともプライマリーケアの理念を植えつけるためには,医学・医療総論という形式で教育がなされるべきであろう。今回の案は,そのような意味で大いに参考になると思う。
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