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わが国では投影的心理検査法の一つ「ソンディ・テスト」の名で知られた運命心理学(Schicksalspsychologic)および衝動病理学(Triebpathologie)の創始者レオポルド・ソンディ博士(Leopold Szondi,1893年生れ)は,本年1月25日,チューリヒ近効キュスナハトのベセスダ療養所(Krankcnheim Bethesda)において92歳の生涯を閉じた。昨年春以来脳動脈硬化症および両膝関節症のため,妻とともにチューリヒの自宅を出て同療養所へ入所以降,心身とも徐々に衰弱の一途を辿っていた様子ではあったが,昨年末には筆者のもとにもクリスマス・カードが届けられ,特別な合併症の知らせもうけてはいなかった。しかし今冬のヨーロッパの強い寒波が影響したためか,1月26日付のソンディ研究所(Stiftullg Szondi-Institut, Krähbühlstr. 30, CH-8044 Zurich)およひドイツ人同僚からの訃報に接した。謹んで哀悼の意を表する。
ソンディは1893年3月11日,当時のオーストリア・ハソガリー帝国領の小都市ニトラヤでハンガリー系ユダヤ人の家庭に生まれ,ブダペストで医学を修めた後,学翌心理学,治療教育学,臨床遺伝学などの研究と臨床に従事したが,1937年以降は精神分析学の強い影響のもとに独自の運命分析理論を構想,実験的衝動診断法(ソンディ・テスト)を創始して「家族的無意識」,「強制運命と自由運命」,「職業選択」,「配偶者選択」,「疾病選択」などのユニークな概念を展開,運命心理学の基礎を築いた。1944年ナチスのハンソガリー侵攻に伴いベルゲン・ベールゼソの強制収容例へと連行されたが,同年スイスへ亡命してO. Forel(A. Forelの息子)の庇護のもとにブランギンスの精神病院へと職場を移した後,1946年チューリヒに移って精神分析家として開業,運命分析学および衝動病理学の一層の理論的展開と教育・普及に専念した。1969年には同地に財団法人・ソンディ研究所が設立され死の前年に至るまで同所長の地位にあった。チューリヒでは現存在分析の影響もうけたが,自らは最後までS. Freudの信奉者の一人と自称しフロイトの精神分析理論を原則的に擁護したところがユングとは違っていた。
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