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I.フランスの精神医療体制
フランスでは,国と県が費用を分担して設立した公立部門と,私立部門によって医療体制が作られている(医療費はいずれの部門でも,社会保障機構から患者に払い戻しが行われる)。D. D. A. S. S. 脚注1)と呼ばれる,厚生省の下部組織が人権保護を目的として,県単位で,公立部門と私立部門の間の調整を行い,これらがそれぞれ十分に機能するように監督している。このようなシステムは,医療全般のものだが,精神医療に関しては,更に公立部門のために特別の法律と機構とが準備されている。
フランスの精神医療体制の法的基礎は1838年の法律(「狂人に関する法律Loi sur les aliénés」ともよばれる)であり,これは今日でも有効である。この法律は当時90あったフランスの各県に「狂人」を受けいれ,面倒をみる特別の施設が設立されるという前提のもとに作られている。ただ,この法律では,患者が自ら入院を希望するとは想定されておらず,強制的入院のみが予定されている。これは,危険と思われる患者について,県知事の求めに応じて,あるいは患者の周囲の人々(家族とは限らない)の求めに応じて実施される。この法律によって,「狂人」の為の特別な施設,現在では監禁の場と批判の対象となっている癩狂病が19世紀の間に徐々に整備されていった。こうして,癩狂院内の患者数は次第に増加した。1834年に1万人だったものが,1864年には3万5千人,1889年には7万5千人になった11)脚注2)。往時は,隔離施設が進歩だったのである。一般に孤立して町から離れたこれらの癩狂院は,1930年に精神病院と,そして,この数年来専門型病院センターcentres hospitaliers spécialisésと呼び名を変えている。
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