連載 ニューヨーク人間模様・2
アパートの中の人生
大竹 秀子
pp.168-169
発行日 2000年2月10日
Published Date 2000/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686901159
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イメージは,嘘をつく。「お仕事は?」と聞かれ,「ニューヨークに住んでファッション誌関係の仕事をしています」と言おうものなら,「さぞ,素敵にお住いでしょう。インテリアはどんなスタイルで?」などと絶句するような問いが返ってくる。とんでもない。ただのゴミ溜めである。
家賃が手ごろで日当たりがいい,探さずにすぐ見つかったというだけの理由で住み始めたこの部屋だ。読みもしないくせに本や雑誌を買いあさる,TVを録画しまくる。資料を捨てるのが,こわい。ライター稼業のそんな職業病のおかげで,もともと狭苦しかった部屋に,同じくものを捨てることにほとんど恐怖心に近い抵抗を見せる図体の大きな連れ合いが,ある日,すさまじい量の荷物とともに移り住んで来た。以来,「あなたは一生,お金には苦労しません」と断言した新宿のあの手相見を私は嘘つきだと確信するようになった。お金があったら,さっさと大きな家でも買うもん。
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