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第13章 痴呆 démenceについて(1814)
痴呆 démenceとは大脳疾患であり,通常慢性で発熱を伴わず,感受性 sensibilité,知性 intelligence,意志 volontéの弱化を特徴とする。観念の支離滅裂 incohérence,知性的および精神的 moral自発性の欠如がこの疾患の徴候である。痴呆の状態にある人は,客体を適切に知覚し,客体相互の関係を把握し,比較し,その完全な記憶を保存する能力を喪失しており,そのために正しく推理する raisonnerことが不可能である。
痴呆においては印象 impressionsの力が薄弱すぎるのだが,それは感覚器官の感受性が弱化しているためか,伝達器官 organes de transmissonがその活動性を失ったためか,最後に大脳自体がもはやそこに伝達された印象を知覚し保持する力を十分にもっていないためである。その結果,必然的に感覚 sensationsは脆弱,曖昧,不完全だということになる。痴呆の人は十分強力な注意力を行使することが出来ない。彼らは客体についての明確な真の観念を形成することが出来ないので,観念を比較することも連合 associerすることも抽象することも出来ない。思考器官 organe de la penséeに十分なエネルギーがなく,その様々な機能を統合するに必要な緊張力 force toniqueを奪われている。そこでこの上なくちぐはぐな観念が相互に何の関係もなく次々に継起し,何の結びつきも動因もないままに相次いで生起することになる。話題は支離滅裂で,患者は正確な意味を与えずに語や文をそっくりそのまま反復する。一見物事を順序だてて考えているかのように話をするが,自分が何を話しているかの意識 conscienceがなく,頭の中で説明がついているように見えながら,実は昔ながらの習慣に従うか,偶然の合致に応じて同じことを反復するにすぎない。
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