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I.緒言
精神分裂病(以下分裂病と略す)の治療に広く用いられているneuroleptics脚註1)による錐体外路症状が一斉に文献に現われるのは,クロルプロマジンの精神科導入のほぼ2年後である。すなわちパーキンソニズムあるいはこれに類似した病像が,Labhardt98),Ernst45),Weber161),Lehmann104)(1954)によってクロルプロマジンまたはレセルピンの治験報告の中に記載され,Thiébauxら148)やBoucardら14)(1954)によって独立して報告されている。1930年代にインドで精神科治療に利用されていたRauwolfiaによるパーキンソニズムの報告が,Haase70)とWeber161)(1954)によって想起されたのもこの時である。しかし最も注目すべきことは,その治療上の積極的な意義がSteck114)とHaase70)(1954)によって強調されたことであり,この重要性に鑑み後にDelayら35)(1957)は,クロルプロマジンの導入時に観察した特異な精神症状(4560 RP症状群)を,錐体外路性の「緊張亢進を伴わぬ運動減退症状群」に関連づけた。neurolepticsによる錐体外路症状の歴史は,この薬物の導入とともに始まったとみなされるのである。
またアカシジアはSteck144)(1954)によって,急性ジストニア反応の病像はLabhardt98)(1954)によってヒステリー様症状として,眼球上転発作およびその他の部位のジストニア発作が,Letailleur108)(1955),Conradら25)やKulenkampfら96)(1956)によって報告され,これらはDelayら35)(1957)によって運動興奮発作として総括された。更にSigwaldら(1959)によって独立した症状群として記載された,持続性ないし非可逆性の異常運動は,遅発性ジスキネジアの名称で60年後半から特に注目され,発生機序や予防についての研究が現在も続けられている。これらは神経学的副作用としての錐体外路症状の代表的な臨床単位であるが,既存のneurolepticsを用いる限り,その完全な防止は困難と考えられ,錐体外路症状を惹起しない分裂病治療薬の登場が渇望されて久しい。しかも50年代後半から知られていた,neurolepticsによる分裂病の逆説的な悪化現象や行動障害の発生が,近年錐体外路症状との関連に於いて再び注目されている。当初には治療学上の積極的意味をもっていた錐体外路症状は,今日では反治療的側面を呈示しているといえよう。
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