特集 躁うつ病の生物学
序言
加藤 伸勝
1
1京都府立医大精神医学教室
pp.1262
発行日 1980年12月15日
Published Date 1980/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405203187
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近年,内因精神病の生物学的研究は発展の一途を辿りつつあるが,これには精神薬理,神経化学,神経生理,神経組織化学等の研究の発展に負う所が大である。しかし,内因精神病のうちでも精神分裂病の生物学的成因論は,未だ仮説の範囲を出ないが,躁うつ病,就中うつ病の生物学的成因論の優位性は疑う余地がない。その理由の一つは躁うつ病は情動変化という比較的とらえ易い精神生理学的変化と関連するからであろう。事実,情動変化の生理的機構は精神生理・生化学研究のうちでも最も解明が進んでいる。
情動の発呈は間脳,辺縁系,脳幹部の機能と深い係わりをもつことは確かであるが,心的機能は大脳皮質をも含む包括的な統合機構に基づくものであるので,単に部分的機能異常のみを取り上げることは妥当ではない。しかし,脳が全体として反応するとはいえ,それを駆動する所が部分であるとする考えも成立する。その意味で,躁うつ病の病因を部分の異常に的を当てる方法論も妥当性を欠くとはいえない。いずれにせよ,このシンポジウムでは,躁うつ病の成因を生物学的次元で考察しようとするものであるが,全体と部分との相互関連において脳の機能異常と病像又は病相との関係を見ることに焦点をあてたい。
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