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I.はじめに
ある単語を刺激語として,連想される反応語を求ある連想語テストを分裂病者に試みた場合,反応語が一般に個人特異的で,社会的に共有的な反応語に乏しいことはよく知られていて,分裂病者の思考障害の一つの現れと理解されている1,4〜6,17,21,22)。しかし,これまでの連想語テストのほとんどは,刺激語に対する第一選択の連想語だけを取り上げる単一連想語テストであって,この方法によるかぎりでは,反応語として選択される可能性のあるそれ以外の連想語は明るみに出てこない。また,反応語選択の様態の全貌を知ろうとするにも不十分である。
また臨床的には,分裂病者の「ことば」の特異な使用や理解の仕方にしばしば出会うが,同じ患者が,状況によって歪みなく伝達行動を行なうといった社会性の一面を併せもつことも否定できない7,19)。実際に単一連想語テストでも個人特異的反応に傾きやすい一般的傾向のほかに共有的反応語がみられることも注目されている。
もっとも,「ことば」の意味は,個人によってその内容は異なるとしても,きわめて個人特異的な意味から,社会的に共有的な意味にまでわたる意義素を含むとみてよい。それ故,その「ことば」について個人がもつ意義素を詳らかにするには,できるだけ多数の連想語を収集する方法がとられてしかるべきであろう9)。
その場合,連想語があげられる様態,ことに分裂病者において,第一選択の反応語が現れる機制については,少なくとも2つの可能性が考えられている。1つはChaplnan3,14)のstrong meaning説に代表されるように,最も強い意味ないし連想性をもつことばがまず選択されると考えるもので,他は,Broen and Stormsら2)のinterruption theoryのように,ことばの階層構造がくずれ,いくつかの反応語のうちいずれかが無統制に偶発的に現れるとする見方である。前者をとれば分裂病者の連想語の様態はきまった偏りをもつことになるが,後者では内的生起を統制しえないでたらめな状態ということになる10)。このいずれの仮説も「ことば」の意味を多様的に考え,階層構造(hierarchy structure)を想定する点では一致している。しかし,その連想の様態を反映すると考えられる反応語の選択の推移については詳しい論述がなされていない。分裂病者のことばの歪みの理解にはむしろ反応の継時的変化に注目する必要があろう。
そこで,この研究では,ある刺激語に対して一定時間の間にできるだけ多くの連想語をあげる「連続連想語テスト」を行ない,ⅰ)分裂病者にあってもことばの意味は多様か,ⅱ)共有的意味をもっているか,ⅲ)ことばの意味はどのように構造化されているか,ⅳ)反応語はどのように選択されているか,などについて検討した。
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