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I.はじめに
躁うつ病に対する神経生理学的研究としては,睡眠研究を中心として脳波,眼球運動,誘発電位,GSRなどの諸研究がなされ,興味深い知見も得られているが,統合的理解はまだ確立されておらず,さらに新たな研究の積み重ねが望まれている。著者らはかねてから,大脳皮質視覚領域および連合領野の興奮水準を示す生理学的指標とされている4,14),光のちらつきの融合限界頻度(critical fusion frequency of flicker,以下CFFと略記)の測定をうつ病者に応用しているが,今回はうつ状態時のCFF値,および症状の変化に伴うCFF値の変化を,特に臨床型との関係において検討した。
うつ病者のCFF値に関する研究は,まだ数が少なく,またその所見についても一致した結論は得られていない,すなわち,うつ病者のCFF値は躁病者あるいは正常者のそれに比較してほとんど差異がないとするもの2,3)もあり,低値を示すとするもの1,10)もある。CFF値の決定には多くの要因が関与することが知られているので,以上の相反する実験結果については被検者の病型,病期および治療などの諸条件を比較検討したうえで考察しなければならないと考えられる,したがって今後のCFF値の研究にあたっては厳密な条件のもとでこれらの病型,病期,症状,および治療における差異を十分に検討する必要があろう。
ところで1965年,著者の一人の松本6)はうつ病者について内田・クレペリン連続加算テスト負荷時のCFF値の時間経過に伴う変動の特徴に注目し,その経過曲線型をⅠ〜Ⅴ型に分類して検討したところ,いわゆる執着性格者はⅡ型を示すことが多いが,初老期うつ病,単相型うつ病者ではこのⅡ型が高率にみられるのに,両相型うつ病者ではむしろⅠ型が有意に高率にみられること,およびⅤ型は分裂性格者に多いことを見出した。この結果に基づいて松本は,執着性格の傾向の強い者では大脳の興奮水準は低下しにくいが,それは疲労に抗して活動を高水準に維持するためで,その結果としてやがて強い疲憊が生じ,その極点で抑うつ症状群,あるいは発揚症状群が出現するのであろうと解釈し,下田の説を支持する結果になった。躁うつ病の発病については最近執着性格11),メランコリー性格15)などとの密接な関係が注目をあびているが,この知見は,執着性格の特徴を生理学的指標を用いてとらえ,うつ病の病因に一つの示唆を与えた点で意義あるものと考える。この結果をふまえて今回はうつ病型,特に初老期うつ病と非初老期うつ病とのあいだにCCF値に差異があるかないかの検討を試みた。
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