Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
Aetatis praecocitas sive declinatio quosdam ad morosin disponit. (Thomas Willis)
青春と老いらくは人によりて気欝のもとなり。(T. ウィリス)
I.はじめに
「うつ病」とよばれる病態の本質が脳内アミンの枯渇1)であれ,喪失と悲哀2)であれ,あるいは「学習された救いのなさ」learned helplessness3)であれ,いずれにせよ停滞と銷沈に特徴づけられるこの状態はわれわれにとっては,ごく親しいものである。
このうつ病を内因性,反応性,神経症性などの類型に分かつという,従来踏襲されてきた医学的分類は今日の臨床の場ではすでにその有効性を失っているように思われる。人間を精神と身体に分離して把握する立場を棄て,これを「心身統一体」として理解しようとするならば,「内因」―おそらくは最終的には生物学的水準における物質的な変動に帰せられよう―としての情動の動きが,そのまま直截的にうつ病とよばれる病態に発展するとは考え難い。主体のこの情動の変化を制御し,社会的存在としての自己を安定したものに留めておこうとする営為の側面が様々な契機によって変容し,うつ病の発症にある決定的な役割を演じているのではなかろうか。ここでうつ病は,病者が自己の人生を如何にとらえるかという姿勢と無縁ではなくなり,この意味でうつ病にはその時代の社会的・文化的背景が色濃い影響を与えているはずである。
ここに青春期と初老期(退行期)という対比的な2つの位相を取り上げるのは,これがともに人生の移行期―これはとりもなおさずその人の生に必然的な状況全般の変化を強いる危機Krise4)を準備する―として,うつ病の好発期にほぼ一致し5,6),また両者の異同と発病状況・病前特性を考察することによって,うつ病の理解を深めようと試みるためである。
統計資料に関する問題点の指摘に次いで,症例を混じえて青春期・初老期のうつ病について考察を行ないたい。
Copyright © 1979, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.