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I.はじめに
躁うつ病治療に,三環抗うつ剤・強力精神安定剤が用いられるようになって以来,薬物療法が病相期の症状軽減に大きな役割を果たすようになってきていることは周知の通りである。しかしそれは未だ対症療法の域を出ず,周期的な症状の増悪や再燃を十分には制止し得ていないのが現状である。そのため一旦は症状が軽快しながらもなお安定せず,社会環境的状況変化や心的誘因で容易に再燃をきたしたり,社会生活を可能にしながらもなお,いわゆる残遺状態のために患者自身が苦しむ症例も多い。
炭酸リチウムはCade8)によって初めてその抗躁作用が認められたが,当初うつ状態については否定的な報告がなされた。しかしVojtěchovskýが電撃療法で改善をみなかったうつ病患者に炭酸リチウムを試みて有効であったとの報告に始まり,その後一連のuncontrolled10,16,23,38)ないしcontrolled study7,12,14,22,35)による抗うつ効果が認められてきている。
一方Schou一派は躁うつ病にリチウムを長期投与することで躁病相のみでなくうつ病相をも抑制し得るという臨床知見に始まり,その予防効果について研究を進めた6,28,29)。効果判定の厳密な方法が検討されるにつれ,リチウムによるこの効果はかなり確固としたものになりつつある。本邦でも既に,この観点での臨床知見が報告19)されている。
さらに,単純な一価イオンであるリチウムが両病相に有効であり,しかもその維持与薬がこれら病相の再燃に予防的意義をも有するといった事実は,この病態の身体的基盤解明の手がかりにもなるものとして種々の立場の研究がなされている13,26,33)。
今回われわれは躁うつ両病相に炭酸リチウムを用いて一定の効果を認めたのみでなく,その中でいわゆる難治性と思われる躁うつ病においても症状の寛解をみることができた。その多くが定型的な治療にもかかわらず長期間にわたって躁うつ病相を繰り返したり,うつ状態が不完全治療のかたちで持続していたものである。そのため職場より離れた療養生活をしばしば余儀なくされていたものも多く,症例によっては長期の入院生活を続けたままであった。
併せて,病相期に入院治療を行なった症例について,炭酸リチウムの尿中排泄量と血清リチウム濃度を症状との関係で検討したので報告したい。
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