シンポジウム 現代における精神医学研究の課題—東京都精神医学総合研究所開設記念シンポジウムから
精神医学における現象学的方法
荻野 恒一
1
1東京都精神医学総合研究所
pp.947-953
発行日 1974年11月15日
Published Date 1974/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202240
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Ⅰ.現象学的精神医学の立場
現象学という術語は,哲学の領域では最初Lambert, J. H. によって称えられ,ついでKant, E. によって,形而上学の予備学としての現象学が皆えられた。しかしながらここで現象学という場合,Brentano, F. によって記述的現象学と称えられ,Husserl, E. によって確立されたPhänomenologieをいう。しかもわたしたちにとって,現象学はHusserlの晩年の著作の中に初めて明確に現れ,むしろ今日になってフッサリアーナーの刊行とともに全貌を現しつつあるHusserl後期の現象学,さらにはHeidegger, M. やSartre, J. P. やMerleau-Ponty, M. へと受け継がれてきた現象学であり,一言にして「ヨーロッパ諸学の危機」の自覚の上に立って,Descartes以来の諸科学の根拠を改めて疑い,その科学的方法と取り扱われている事象との間の不適合を露わにし,さらに進んでは,取り扱われている現象にふさわしい新しい方法論に基づく新しい経験科学の樹立を志そうとする運動を意味するのである1)。
それにしてもなにゆえこの現象学が,今日の精神医学の中で問題になるのであろうか。また現象学は今日まで,精神医学にいかなる貢献をしてきたのであろうか。そしてその結果,精神医学の内部でどのような学派ないし潮流を形成してきたのか。以下,まずこの点について簡単に述べたい。
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