巻頭言
難病対策と分裂病対策
加藤 伸勝
1
1京都府立医科大学精神医学教室
pp.818-819
発行日 1973年8月15日
Published Date 1973/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202058
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厚生省が発表した昭和48年度当初予算が前年度に比べて24.6%伸びたという新聞報道に目を止めた精神科医は多かろう。そこに掲げられていたものは,スモン,ベーチェット病などの難病,奇病対策費が前年度の2倍を越えて182億円計上されたということ,癌研究助成金が前年度の4億7800万円から7億5000万円に増額されたという記事であった。しかし,われわれの目には残念ながら,精神障害者のための新予算の計上は何一つ映らなかった。
スモン病,ベーチェット病,全身性エリテマトーデス,重症筋無力症,多発性硬化症,再生不良性貧血を初めサルコイドージス,難治性肝炎のいずれをとっても,現代医学でもその成因すら不明のものが多く,治療に至っては今後の課題として残されているものばかりであり,まさに難病である。これらの疾患に対して,国がその医療と保護の手をさしのべることに私は諸手を挙げて賛成するのに吝かでない。一方,癌に関してはどうだろう。癌の成因に関する多くの学説が生まれ,治療薬も枚挙にいとまがない。しかし,癌は本当に治るのだろうかと問いかけるときに,如何なる癌学者といえども確信を持って"イエス"とはいいきれまい。癌は確かに昔から難病であったし,今日でも難病の域から抜けでていない。したがって,癌研究に厚生省が7億の金を投じたからといって感心するには当らない。むしろ,少額に過ぎるとさえ思えるほどである。
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