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現在の精神医療を考えてみると,精神分裂病は治療の難かしい病気であるにもかかわらず,俗に難病といわれる慢性特殊疾患としてとりあつかわれているわけではない。何故か分からないが,慢性分裂病をこのなかに入れてないのはどういうわけか。過ぐる日ある人が,実は精神障害者のためにはどうしても緊急の時など措置入院が必要であり,年ごとにその件数は減少しているにしろ精神衛生法の費用のためには年間何百億円を要しており,このような疾患にはこれ以上の国費は出せないといわれた。分裂病は慢性疾患の代表的なもので全額国費でまかなうべきだと気負っていた者も黙ってしまった。こんな言葉のやりとりの中にも精神障害者に対する偏見のあることを知らされるであろう。
それにしてもとりわけ精神分裂病の概念規定があいまいなのが問題である。それにともなって予後の問題も難かしいことをあらためて知ることであろう。後者には薬物治療や精神療法などの新しい問題が関係する。WHOのICD専門委員会ではこうした概念規定の問題が他の疾患と同様に長期間をかけて検討中であるが,いつまでも本態が分からないところに大きな障壁があり,そのため分裂病を一概に慢性の特殊疾患だといえないところに問題が横たわっている。ことに経過と予後については長期間にわたるいくつかのパターンに分けてもその判定が難かしく,ことに薬物療法や精神療法などが加わると判定は複雑多岐にわたり,結局せんじつめると予後がよかったのか悪かったのか分からない点が残るであろう。ある場合は分裂病の概念の拡大を試みると,それなりにその無限性のためにその疾患を定義づける勇気に欠け,一方において概念を狭めようとすると除外診断の立場から反対に境界領域を広めようとするのである。時には思いがけないような政治的な考え方もこれに交錯しないとも限らない。いいかえると多次元的な考え方が難かしくなると分裂病概念はKraepelin時代のようなpraecox概念にのみ限局するべきであるという原点に立ち帰ろうとする。
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