巻頭言
実践の場にこそ科学としての精神医学を
高橋 良
1
1長崎大学精神神経科
pp.222-223
発行日 1973年3月15日
Published Date 1973/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201992
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この標題の意味はきわめて当り前のことであり今さら何をと人は思うであろうし,筆者もいささか気恥かしい思いであるが,しかし最近種々の機会にこのことの重要さを痛感しているので,あえて掲げさせてもらった次第である。
たとえばここ数年「精神科医療・精神医学」という併列用語的表現がよく使われるようであるが使う人の頭の中には精神科医療と精神医学とは互いに排他的な領域であるか,またはそうでないにしても相補的な独立領域であり,併列して用いないと精神医学的活動全部を包含しないという考えがあるのであろうか。または精神科医療は治療的実践面を,精神医学は理論面を表現するものと考えるのであろうか。しかし精神医学は本来臨床医学であり,実践なしでは存在しえないし,診療実践も科学的理論なしでは医療ではなくなってしまうのは当然である。したがって医療も医学も同一活動であり,またあらねばならないはずである。従来の我国の医学が反省されねばならない点は正に医学と医療が分離している面が多かったからである。それ故悪しき意味における医療と医学を表現しようとして併列的用語を用いるならば尤もであろうが,現在の自己の活動についても精神科医療・精神医学と表現することは批判的立場に矛盾することになろう。そして従来の医学を反省し批判することは容易でも,自己の診療実践の中に真の科学を打ち立てることは容易なことではない。
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