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特集 地域精神医学—その理論と実践
第63回日本精神神経学会総会シンポジウム
疫学と地域精神医学
Epidemiology in Community Psychiatry
加藤 正明
1
M. Kato
1
1国立精神衛生研究所
1National Institute of Mental Health
pp.796-799
発行日 1966年10月15日
Published Date 1966/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201073
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I.はじめに
今回の地域精神医学のシンポジアムで,一般演題4のうち3題が疫学的研究に属するものであつた。久留米大の向笠らは商業都市,農村および炭坑町の3地域における酒精中毒者を比較し,職業分布,入院歴,離婚率,治療効果などに差があることを指摘している。アルコール問題は地域精神医学における課題としてとりあげられることが多く,疫学的にも酒精中毒・嗜癖がその社会でいかに規定され対処されているかという重要な問題がある。したがつて来院した事例と来院しない事例の比較が大きな意味をもつてくるのであつて,いかなる事例が誰によつて事例とされたかという事例性casenessの検討の好材料であり,それは地域住民のアルコールに対する態度の反映でもある。地域精神医学の問題としては,高知の下司孝麿,神戸の森村茂樹,弘前の津川武一などの諸活動にもみられるように,酒精嗜癖者の家族の組織をつくることを通じて,地域社会の組織化の問題をとりあげ,関係職員や断酒会指導者に対する技術指導を検討する必要がある。
千葉大の羽田らは3歳児検診にあたつて,トキソプラスマ症の陽性率を地域ごとに比較検討し,機械化の遅れた農村に高かつたとしている。精神衛生を公衆衛生のなかにもちこむことは,地域住民の広いニードのうえに精神衛生をもりあげるために必要不可欠のことである。また精神薄弱の疫学は,その対象となるものが広汎なため,有病率の捕捉がもつとも困難であるので,その特殊類型にしぼることが有意義であり,たとえばオーストラリアのStollerなどが古くからこれを行なつている。
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