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「現代の精神的状況」は,実存哲学的世界観によれば,たとえば伊藤の著に従つて述べるとつぎのごとくなる。現代,人間は危機にさしかけられている,すなわち一方では自己の個人的主体的存在を放棄して現実の大衆の世界,技術と機械文明の世界のなかに埋没するか,他方世界と手を絶つて孤立した自己の世界のなかに閉じこもるかの岐路にある。そして人は自己の個別的自由存在を回復しようと願つている。しかしその理想の実現されたときかれは孤独である。孤独は現代にかぎらず人間存在の起初から,人間がこの危機を意識したときに人間を襲つていたのである。人が自己の個別存在を確立しようとするとき,つねに世界との間に距離を生じ,我と世界との接触はある制約のもとにおかれる。それをあえてしても人は個別主体的存在を希求する。あるいは外的条件によつて心ならずもその立場におかれることがある。孤独はそこに始まる。そして伊藤は孤立した自己世界への閉居をただちに分裂病的な世界に結びつけているが,いま少し見方を変えて考えてみよう。
主観的な孤独,社会的に見ての孤立化Isolierungの分裂病発現にかかわる因子としての考察は,最近Kulenkampff,Waltherによつてなされた。Kulenkampffは孤立状況への変動様態として,(1)強制的に孤立状況へ押し入れられることHinein-gestossenwerden,およびそのなかへ入り込むことHineingeraten,(2)慣れない,ただならぬ状況へ自らを「放入」することSich-Einlassen,(3)誘惑されVerführtwerdenそしてそのままに身をまかすことSich-verführen-Lassen,(4)あえて〜するの状況へ決行することSich-Hinauswagenの4つの様態をあげた。Walther,はさらにKiskerの家族研究,Benedettiなどの分裂病の社会学的研究を重視しつつも,ConradのTremaの状態における人間,すなわちUnrastと,始まりつつあるIch-Entmächtigungのなかにある人間には真の決断はありえないとし,かかる人間には非了解可能unverständlichで不気味なunheimlichなものが起こつており,かれは一つのAnders-Werden,Sich-Selbst-Fremd-Werdenのなかにおかれ,そこから(1)このAnders-Werdenを把握するためにすべてのエネルギーを集中し環界との接触を絶つて孤立化するか,(2)不気味なものに対する衝動的不安へと逃がれ社会的結合を絶つて孤立化するか,の方途をとるとし,社会的条件を発病要因としてうのみにできないことを論じている(ただし再発に対しては,患者のすでに起こつている人格変化から社会的要因の重要性を認めている)。
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