特集 老人の福祉と保健
孤独な老人
米林 喜男
1
1順天堂大学体育学部保健社会学
pp.159-165
発行日 1972年3月15日
Published Date 1972/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401204437
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1963年に老人福祉法が制定されてから10年近くの歳月が流れたが,この間にはたしてこの法律が目的とする老人に対して,その心身の健康の保持および生活の安定のために必要な措置が講じられ,老人の福祉がはかられたであろうか.また多年にわたり社会の進展に寄与してきた者として敬愛され,かつ健全で安らかな生活が保障されているであろうか.いまだ残念ながら答えは"否"といわざるをえない.数多くの統計は,老人の交通事故死や焼死の増加を物語っており,死後何日もたってから遺体が発見される"孤独死"も激増している.また,老女の自殺は世界一であり,老人ホームの収容率は世界の最低水準をいく.また,一人住まいの老人の数は鳥取県の総人口を上まわり急激な勢いで増加している.寝たきり老人の数も全国で約40万人と推定されるなど,老人を取りまく環境はあまりに暗い.加えて,新民法が方向づけた核家族化が今日ではもはやとどまることを知らぬ勢いで進行しており,価値体系の急激な変化と相まって,こどもが親を扶養する"私的扶養"は急速に崩壊しはじめている.今や,老人核家族は好むと好まざるとにかかわらず自前主義でいかざるをえない状況に追いやられている.さらに,厚生省をはじめとする数多くの行政機関や学術団体の調査報告もそろって今日の老人がかかえているさまざまな種類の不安を明らかにしている.まさに現代社会における老人達は"灰色の孤老"になりつつあるといってもよいであろう.
Copyright © 1972, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.