映画評
広場の孤独
長谷川 泉
pp.39
発行日 1953年11月10日
Published Date 1953/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200630
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堀田善衛の芥川賞受賞作品の映画化である.監督は佐分利信で,自演もしている.新聞社の外報部を中心に動いている世界の動向を刻々にキヤツチしてゆくニュースのながれを背景に,日本の現状分析と,今後を思わせぶりに描いている.思わせぶりにということは,材料だけは尨大であり,その意味するところは広く深いのだが,映画ではそれが完全に描きだされていないで生のままころがつている点があり,観客にはよくわからない一人がつてんがあることである.しかし,スターリンの重態から死という世紀の出来事をバツクとした国際政局の動向と日本の政治,経済,社会問題の結びつきがジヤーナリストの敏感な反応のしかたで描き出され,敗戰後のアメリカナイズされた日本と混沌たる独立への歩みのニュースの断片がモンタージユされる中で筋がはこばれてゆく新しい時代感覚を描いた映画としては極めて野心的なものである.從来の日本映画に乏しかつたし,あつてもまともに描かれることの少かつた面だけに一見に値するものと思う.
主要人物は若い外報部員木桓(新人菅佐原英一)と副部長の原口(佐分利信)とその妻(高杉早苗)と外国くずれの怪老人テイルピツツおよびそこに就職した津島惠子扮する女.彼女は左翼労組員の妹である.
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