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I.序論
自殺はGAUPPの言葉をまつまでもなく,生物学的,社会学的および心理学的な問題であり,その研究にもそれぞれの方向からの観察方法がある。近年,個人心理学的研究に関しこの業績は,はなはだ多く,それらはまた自殺予防への課題とも強く結びついている。一方,社会学的ならびに生物学的方面からの研究は,DURKHEIM(1897),CAVAN(1928),DUBLIN(1933),GRUHLE(1940),RINGEL(1953)らのほか,わが国でも加藤,田多井,大原らの多くの研究がある。なかんずく,自殺の生物学的要因として当然問題となるのは,生来性の素質や遺伝素因,とくに精神病との関係である。全自殺者のうち精神病患者の占める割合は,著者により3%(WEICHBRODT)から66%(STERZLER)の幅がありいちじるしく相違している。中でも自殺を遺伝素質や精神病によるとする極端な主張の代表者はDELMASであり,彼はsuicide vraisのうち90%はzycloid,他はtémperaments hyperemotifsであるとしている。もつとも現在では,自殺傾向そのものの遺伝性を考えるものはない。KALLMANおよびANASTASIOは2,500組の双生児研究で,"たとえ同じ種類の精神病に罹患していても,双生児の一方だけしか自殺しないような例がかなりある"と述べているごとく,自殺傾向そのものが遺伝するとはまず考えられないが,自殺に赴きやすい精神病の遺伝は当然考えられることである。すなわち,彼らはまたいずれか一方が自殺した11組の一卵性双生児の研究で,そのうちの6組には家族に遺伝性精神病を認めたと報告している。またRINGELは非精神病の自殺未遂に関する研究で,近親者になんらかの精神障害の認められるものは67.8%であると述べ,わが国でも加藤は17.6%に認めている。大原は救急指定病院において67名の未遂者中,その25.37%に近親者に精神障害を認め,これは同じ形式で調査した健康対照群の8.32%に比しいちじるしく多いと述べている。
以上はいずれも自殺者を発端者として行なわれたものであるが,他方,精神障害者の家系内に自殺者が比較的多いことも周知の事実である。われわれはこのたび当教室で従来行なつてきた各種の精神障害者の家系調査を資料として,主として家系内にみられる自殺者を対象に種々の見地から調査したので,その結果の概要を報告する。
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