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研究と報告
入院中の分裂病者の自殺(第1報)—自殺既遂について
A Study of Successful Suicide in Hospitalized Schizophrenics.
稲地 聖一
1,2
Seiichi Inachi
1,2
1三重県立高茶屋病院
2三重県立大学医学部精神神経科
1Mie Prefectural Hospital Takachaya
2Dept. of Neuropsych., Mie Prefectural Univ. School of Medicine
pp.213-217
発行日 1968年3月15日
Published Date 1968/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201307
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Ⅰ.まえがき
自殺の定義については種々の議論があるが,大原1)は,自らの生命を絶つ行為を総括して広義の自殺行為とよび,それをさらに純粋自殺と偽似自殺とに分け,精神病による自殺行為を後者にいれている。これに対して梶谷2)は,精神病者の自殺のなかにも清明な意識,希死念慮および死の見通しのそれぞれがそなわつている場合があり,精神病者の自殺を単に偽似自殺として見逃がすべきでないと主張している。
従来精神病者の自殺の動機は不明な場合が多いといわれている。しかし近年になつて精神病者の自殺を心理的に解明すべくこころみられるようになつた。たとえば柴原3)は,自殺企図を示した急性精神病者を分析し,「その人格構造が幼少期より培われた劣等感に満ち,敏感,小心,内向的で,権威的存在への依存的な面により支えられている場合には,その攻撃性は自己完化への熱意として発現し,なんらかの原因で依存対象が喪失した場合には,この内面的両極性は不安定性を露呈し,攻撃性は正常の目的から遊離し内向して,自殺企図として発現する」と述べている。梶谷は分裂病者の自殺を病識との関係において了解しようとし,「病識に照らされた人は生活史的矛盾を背負つたまま現実に正面から対決しようとする人であり,この勝ちめのない闘いが,自殺へと導かれていくのは当然といわねばならない」また「病識なき自殺は,精神病によつても救えない不安,つまり防衛の閾を越えた破局的事態があらかじめそこにあった」と述べ4),不安を理解の手がかりにして,その動機を論じている。またFairbank5)や山田6)らは,精神病者の自殺行為の動機として,絶望感を重視している。
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